2007.12.30
地下室
目の前に一人の男が横たわっている。
死亡して、まだ間もない。
ここでは名前は伏せておくが、かなり名の知られた男だ。
山賊のような風貌をしているが、
もとは身分ある家柄の出だ。
いわゆる義賊、というものだろうか。
ロビン・フッドの再来などと噂されていた。
民にも慕われていた。
その男が死んだ。
* * *
今、主の命を受けて男を蘇生しようとしている。
何か重要な事柄を秘したままの死、といったところだろうか。
詳細は知らされていない。
いずれにせよ、
一介の錬金術師たる私が口を挟む問題ではないことだけは確かだ。
* * *
本当に魂の再生などできるのだろうか。
思いつくかぎりのことをやってみた。
文献に記されていた方法も、すべて試してみた。
「お願いだから、生き返ってくれ・・・」
時間だけが過ぎていく。
* * *
あれから、どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
薄暗い地下室にいては昼も夜もわからない。
男は依然として静かに横たわったまま。
変わったことといえば、
腐敗臭が鼻をつくようになったことだけだ。
* * *
腐敗臭は、ますます酷くなってきた。
それでも、手を休めるわけにはいかない。
吐き気と疲労で、頭がもうろうとしてくる。
* * *
私の中の何かが歪むのを感じた。
「お願いだから、生き返ってくれ・・・」
* * *
頭の中のガラスが割れた。
「お願いだから・・・」
* * *
視界がゆらいだ。
「お願いだ・・・」