高度ポリテクセンターの担当者の方から、扱う課題を決めて欲しいとの連絡をいただいていたのですが、かなり、相当、真剣に悩んだ末、やっと決めることができました。それは宮沢賢治『春と修羅』の序文から喚起されるイメージで作品を作るというものです。
▼追記ここから
テーマ:宮沢賢治『春と修羅』の序文
選択の理由として、以下の事項があげられます。
・何かを創作するにあたっての気概が読み取れる
・ある種難解なぶん、解釈にあたっての想像の幅がある
・視覚的イメージを喚起される表現が多々ある
・サイエンスとクリエイティブの融合を感じる
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序
わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)
これらは二十二箇月の
過去とかんずる方角から
紙と鉱質インクをつらね
(すべてわたくしと明滅し
みんなが同時に感ずるもの)
ここまでたもちつゞけられた
かげとひかりのひとくさりづつ
そのとほりの心象スケツチです
これらについて人や銀河や修羅や海胆は
宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら
それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが
それらも畢竟こゝろのひとつの風物です
たゞたしかに記録されたこれらのけしきは
記録されたそのとほりのこのけしきで
それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで
ある程度まではみんなに共通いたします
(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに
みんなのおのおののなかのすべてですから)
けれどもこれら新生代沖積世の
巨大に明るい時間の集積のなかで
正しくうつされた筈のこれらのことばが
わづかその一点にも均しい明暗のうちに
(あるいは修羅の十億年)
すでにはやくもその組立や質を変じ
しかもわたくしも印刷者も
それを変らないとして感ずることは
傾向としてはあり得ます
けだしわれわれがわれわれの感官や
風景や人物をかんずるやうに
そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに
記録や歴史 あるいは地史といふものも
それのいろいろの論料《データ》といつしよに
(因果の時空的制約のもとに)
われわれがかんじてゐるのに過ぎません
おそらくこれから二千年もたつたころは
それ相当のちがつた地質学が流用され
相当した証拠もまた次次過去から現出し
みんなは二千年ぐらゐ前には
青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ
新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層
きらびやかな氷窒素のあたりから
すてきな化石を発掘したり
あるいは白堊紀砂岩の層面に
透明な人類の巨大な足跡を
発見するかもしれません
すべてこれらの命題は
心象や時間それ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます
宮沢賢治『春と修羅』の序文より
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テキストは青空文庫からの転載です。
青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/
『春と修羅』
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1058.html
なお、セミナーの進め方は以下のように予定しております。
■1日目
課題である『春と修羅』の序文の中から
各自好きなキーワードを選び、
それを視覚化した作品を作成。
キーワード例:
「青い照明」「巨大に明るい時間の集積」
「青ぞらいつぱいの無色な孔雀」「紙と鉱質インク」
■2,3日目
序文全体、もしくはセンテンスから喚起されるイメージから
作品を作成。
この時、1日目に選んだキーワードが含まれている必然性はありません。
また、一般的な解釈にとらわれず、
独自の解釈からイメージを構築しても全く問題はありません。
自由に発想してみてください。
* * *
今回の課題に選んだ『春と修羅』の序文は、宮沢賢治本人にしてもかなり気に入っていたもののようです。私もかつて初めて読んだ時にはかなり感動しました。スバラシイ!
このイメージがどのように展開するか、楽しみです。
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