2005.8.4
カタツムリ
道ばたでカタツムリに会った。
これからオペラを観にいくとのこと。
オペラ?私は一度も観たことないんだけれど。
「なかなか良いものですよ」
どんなものが好みなの?モーツアルトとか?
「なんだっていいんです」
「あれって物凄い声量でしょ?
それによって私の殻は振動するんです。
ぶるぶる、って。
その振動を受けて私の身体も揺れるんです。
ぷるぷる、って。」
他のコンサートじゃダメなの?
「いろいろ試してみたけれど、
やはりオペラが一番なのです。
なんて言うか、ほどよい塩梅ってヤツですかね」
「中でもソプラノの振動が好きなんです。
小刻みで、きめ細やかな振動に包まれる感じが」
「一時、仲間うちでも流行ったことがありまして。
ひしめきあって観ていました。
でもね、ここって波がきた時に
隣の方の殻と自分の殻が
ぶつかってしまうこともあったのです」
「ふわっとした振動に包まれていたと思ったら、
突然、隣の殻とぶつかる『ごつん』という音。
いきなり現実に引き戻されるのです」
「正直言って、残念でした。
みんながこの楽しみをわかってくれるということは
嬉しかったんですけどね」
「最近はそんなことはありません。
思う存分、振動に浸ることができます」
「あ、そろそろ行かないと」
楽しんで来てね。
ヌラヌラした粘液を引きずりながら去って行く彼を見送った。
【旧 Short Tripより 2001.10.21】